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受動免疫と能動免疫:血清療法の危険性

血清療法:動物の血清に含まれる抗体による治療

19世紀末に、ベーリングと北里が抗体を発見したことがきっかけとなり、ジフテリア、破傷風などの感染症の治療が劇的に変わりました。
ウマやヒツジに、感染症の毒素を注射し、抗体が産生されたときに、血清を採取します。
多くの人がいのちを奪われたジフテリアや破傷風の感染症に罹っている患者に、それぞれの感染症の抗体を含む血清を注射するのです。
抗体のなかった人に、ウマやヒツジの体内で作られた抗体が含まれている血清を注射すると、感染症は劇的に改善し、回復しました。ひん死の状態の患者さえも回復したため、感染症によって多くの人のいのちが失われていた時代が、まるで信じられないほどの効果があったのです。
血清療法と呼ばれて、大流行し、なんでも、かんでも、血清、血清というほどでした。


血清療法の問題点が明るみに

血清療法が改善され、いろいろな感染症に対応する血清がつくられれば、人類は感染症から完全に救われるという期待がありました。 しかし、徐々に問題点が現れてきます。


第一の問題は、血清を注射して獲得できる免疫機能は短命であるということです。
自分以外の動物の体内で作られた免疫機能を、抗体が含まれる血清を注射することで、もらうのが血清療法です。
このように自分の体内で作られものではない免疫ですから、受動免疫passive immunizationと呼ばれます。
早ければ、注射して数日もすれば、代謝され、尿中に排出されてしまいます。


しかし、血清療法にはもうひとつ、もっと深刻で、決定的な問題がありました。
血清療法の免疫機能は短期間しか効果が続かないため、繰り返し血清を注射する必要があります。
すると、注射した部分の皮膚に激しい発疹などの症状が表れ、ひどい場合は皮膚が壊死してしまうような問題が起こりました。
これは、注射された動物の抗体を抗原とみなして、体内で新たに抗体が作られ、拒絶反応をしたために起こった現象です。
アナフィラキシーのところで説明したように、血液中に抗原が進入することは、非常に危険なアレルギー症状アナフィラキシーの原因になるのです。

血清を異物として拒絶する反応

血清を注射したことによっておこるいろいろな副作用が徐々に問題視されるようになり、血清病として知られるようになります。
そのようなときに、血清病の衝撃的な事件が起こります。
ランゲルハンスという著名な医師の2歳の息子がジフテリアに罹り、血清の注射による治療が行われましたが、激しいショック症状を起こし、まもなく死亡してしまいます。
このことがきっかけとなり、臨床の現場では血清療法は敬遠され、使われなくなります。
受動免疫は、本人にとっては異物であり、身体が拒絶するものであることが明瞭になったのです。


能動免疫

わたしたちの身体の免疫機能の働きは、外部からの抗原の侵入を察知して、その抗原に対応する抗体が体内で産生されることによって成立しています。
血清の注射によって獲得する免疫が受動免疫と呼ばれるのに対して、自分の体内で作られる抗体による免疫機能を能動免疫active immunizationといいます。
現在、血清療法は特別なとき以外は使われることはありません。
より安全に能動免疫を獲得する方法は、病原菌や、その死菌をワクチンとして接種する方法が一般的です。
治療法としては、ワクチンなどと抗生物質を併用するのが一般的です。
受動免疫は、注射されたときに免疫機能を獲得するので、即効性があります。
能動免疫は体内で、抗原を認識し、対する抗体が産生されるまで数日かかりますので、若干時間がかかります。

カテゴリ: 抗原と抗体