Home > 抗原と抗体 > 抗体がないとどうなってしまうのか

抗体がないとどうなってしまうのか

免疫(抗体)が正常に機能しないと・・・

免疫の機能が徐々に解明され、遺伝子的な側面からも研究が進んでくると、今までは、単に伝染病で運悪く死んでしまった病弱な子供とみられていたケースにも免疫的な側面から光があてられるようになりました。
その中には、特殊な免疫の病気が原因であることがわかり、いくつもの症例の原因の解明や治療に道が開かれるようになりました。


ブルトン型無ガンマグロブリン血症の少年の例

1952年に米国海軍のオグデン・ブルトンによって、報告された少年のケースは、それまでの医学の考え方を一変することになります。
この少年は幼いときから感染症を繰り返し、発熱、嘔吐、関節痛に悩まされ、どのような治療を行っても、一時的に回復するだけで、すぐにまた感染症で入院することが繰り返されました。
症状は徐々に悪くなり、いわゆる健康体になる様子はみえませんでした。
幸い、ペニシリンやサルファ剤が症状を抑えるのに効果的で、一時的であっても、なんとか元気を取り戻すことができました。

ブルトンによる検査の結果、病気の原因となっているのは、肺炎球菌がもっとも多いことがわかり、ブルトンは、肺炎球菌の死菌からワクチンを作り、少年に接種します。
ところが、驚くべきことに、何度ワクチンを接種しても、少年の体内に抗体ができる気配がないのです。
当時、抗体はガンマグロブリンの一種であることが分かっていましたので、ブルトンは当時の最先端機器を使って、少年の血液分析を試みます。
その結果わかったのは、驚くべき事実でした。この少年の血中にはガンマグロブリンが、まったく存在していなかったのです。
ガンマグロブリンが存在しないということは、抗体が存在しないことも意味しているのです。
その後、同じような症状、同じように血中にガンマグロブリンがない症例が見つけられ、ブルトン型無ガンマグロブリン血症といわれるようになります。


抗体ができないと・・・病気になる

正常な免疫機能があれば、死菌で作られたワクチンを接種すると、その死菌を抗原とする抗体が体内に作られ、同じ菌であれば、生菌が体内に入っても、抗体がその菌を撃退します。
しかし、ガンマグロブリンがないと、菌を異物として認識する抗体ができないため、細菌が体内で繁殖し、病気になり、症状を重くすることになります。
そして、同じ菌によって何度も同じ病気を繰り返すことになってしまいます。


ワクチンではなく、抗体を接種

そこでブルトンは正常な人から血液を採取し、ガンマグロブリンを取り出し、この少年に接種してみました。
正常な人のガンマグロブリンは、その人がいままで獲得してきた多種多様な抗体を含んでいます。
案の定、この少年は、ガンマグロブリンの接種により、免疫機能が働き、いままでのように、病気を繰り返すことはありませんでした。
ただ、受動的に獲得した免疫は、徐々に消滅してしまうため、接種を繰り返す必要があります。

この結果は病気について、大きな発想の転換を要求する出来事となります。
確かに、根本的には、病気の原因は病原菌の感染なのですが、少年が病気になるか、ならないかは、病原菌が理由ではなく、体内に抗体があるか、ないかにかかっていたのです。
私たちはさまざまな病原菌にさらされて生活していますが、病気になるか、それとも病気にならないかの分かれ道は、病原菌の存在ではなかったのです。
外に問題があったから病気になったのではなく、最大の原因は内側にあったのです。
「免疫系の異常」。
これこそが真の問題でした。


ブルトン型無ガンマグロブリン血症の原因はX染色体の遺伝子異常

現在では、ブルトン型無ガンマグロブリン血症の原因はX染色体上の遺伝子の異常であることがわかっています。男の子はX-Y染色体をもっており、X染色体は母親から、Y染色体を父親から受け継ぎます。
女の子の場合X-X染色体をもっており、両院からそれぞれX染色体をもらいます。
女の子の場合、無ガンマグロブリン血症でない父親のX染色体は遺伝子異常を持っていませんし、母親が、異常を持っていても、正常な方の染色体を受け継げば問題ありません。
異常のある方の遺伝子を受け継いでも、X-Xのうちの片方ですから、発病することはありません。
両親ともX染色体に異常があるというのはあまり考えられませんので、この病気になる可能性はほとんどないといっても差し支えありません。 しかし、男の子の場合は事情が違います。
X染色体は母親から受け継ぎますので、母親に遺伝子異常があると、発病のリスクが高くなります。
正常なX染色体になるか、異常な方になるか、確率は50%です。
ブルトン型無ガンマグロブリン血症を発症するのがほとんど男の子である理由がここにあります。

カテゴリ: 抗原と抗体 , 抗体とは