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胸腺:やっと見えてきた免疫機能の素顔

免疫についての新しい2つの情報

過去の歴史を振り返ってみると、考え方を一変するような思想や発見は、なかなか受け入れられませんでした。
人間は本質的に保守的な反応をします。
ところが、「見向きもされない時代」が終わり、新たな事実が受け入れられ、注目が集まると、多くの研究者が競って新しい事実を究明・解明しようと、力が集中的に向けられるようになります。
すると、今までの長い停滞がうそのように、一気に研究が進み、事実が解明されてしまうことがたびたびありました。
1950年代にブルトンにより報告された無ガンマグロブリン症のケースは、抗体の働きと、抗体がかかわっていない免疫の働きに光を照らしました。
1960年代にはディ・ジョージが免疫機能に胸腺が深くかかわっていることを暗示する報告をしました。
免疫学は、まさに次の段階へ進むためのドアの戸口に立っているような状況です。


胸腺と免疫の関係に注目したグッド

ミネソタ大学の学生ロバート・グッドの研究は免疫研究に大きな転換を与えた大きな発見で、次の段階へのドアを開けた人物ということができます。
グッドは無ガンマグロブリン症と胸腺腫を併発している症例に興味を持ち、
免疫機能と胸腺の関係に注目して、ウサギとネズミを使って実験を始めます。
実験は、まず実験用の動物から、胸腺を摘出して、その後の変化を観察することから始めました。
しかし、いくら観察しても実験動物に特別な変化は現れませんでした。
何の成果もなく実験は終了してしまったのです。


偶然発見した胸腺について過去の論文

グッドの友人が雑誌を観ていて、たまたまグリッグの論文を発見します。
それは、ニワトリを使って行ったファブリキウス嚢と抗体の関係について調査した論文でした。
グッドはこの論文を観て、直感的にグリッグの研究の正しさを理解し、改めて研究をやり直すことにします。


胸腺は初期にカギがある

彼は、生まれて、一日、二日の動物から胸腺を摘出したのです。
この生後間もなくという時期が、胸腺を摘出するには重要なポイントだったのです。
果せるかな、胸腺を摘出された動物は、血清中の抗体量は正常で、微生物感染には正常な免疫応答をしましたが、皮膚移植にはまったく拒絶反応がなかったのです。
遺伝的にまったくかけ離れた移植片に対しても、まったく拒絶反応しなかったのです。
そこで、今度は、ファブリキウス嚢と胸腺をもつニワトリを使って、胸腺を摘出したグループ、ファブリキウス嚢を摘出したグループ、両方摘出したグループ、正常なグループを作り、それぞれ何が起こるのか観察しました。
鳥類に特有のファブリキウス嚢は、哺乳類にはありません。
鳥類のファブリキウス嚢は哺乳類では、骨髄に相当します。
この実験結果は胸腺と骨髄(ファブリキウス嚢)は免疫的な生体の防御機能の2つの柱を構成するという新しい説が提案されることになりました。


胸腺はT細胞の働きをコントロールしする

この研究がきっかけとなり、骨髄は抗体を作り出すB細胞の分化・成熟をコントロールし、胸腺は細胞性免疫応答に関与するT細胞の成熟をコントロールすることが明らかにされます。
生後間もなく、ファブリキウス嚢と胸腺をを摘出すると、ブルトン型無ガンマグロブリン症、ディ・ジョージ型胸腺形成不全症とほぼ同じ症状を呈することが実験で確かめられました。
免疫についての考え方は根底から覆され、免疫研究の新しい時代が幕を開けることになります。

カテゴリ: 免疫発見とその歴史