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がんと化学物質:身体の汚染・環境の汚染

がんの原因の追究

J.Hillは、1761年、嗅ぎたばこの常用が腫瘍の発生に関係していることを発見し、報告しました。
次いで、1775年にはP.Pottが煙突掃除の少年たちに陰嚢がんが多発していることを突き止め、その因果関係を指摘しました。
これはがんの原因となるものを発見し報告した最初の例と考えられています。
これらの研究により、がんはなんの理由もなく、自然にできるものではなく、何らかの原因があるということ、とくに環境因子が発がんに深い関係を持っていることが示されのです。
その結果、「化学発がん物質」が存在するという考え方が定着することになりました。

人為的な「がんの発症」実験に成功

1915年に、山極勝三郎がコールタール成分をうさぎの耳に塗布し続けて、ついにがんを発生させることに成功します。
動物実験とはいえ、人為的にがんを引き起こすことができた歴史的な、画期的な実験でした。
しかも、コールタールという化学物質が「がん」を発生させたことがはっきりと証明されたこも大きな衝撃でした。
1940年代になると、E.Wynderなどの研究によって、喫煙と肺がんの関係が大きく取り上げられるようになります。
これらのことにより、「がんと化学物質の関係」に多くの関心が集まりました。

化学物質が遺伝子を損傷する

Armitage-Dollによって、がんは複数の遺伝子変化(突然変異)が細胞に蓄積することによって発生するという考えが示されます。
その後、多くの化学物質が遺伝子に損傷を与えることが確認されて、発がん性物質のリストが作らます。
私たちの身体は60兆もの細胞でできています。
毎日数百億の新しい細胞が作り出され、その数に見合った細胞が死んで、身体から排出されます。
新たに作り出される細胞はすべて遺伝子情報によって、生み出されますが、遺伝子情報に損傷や異常があると、生み出される細胞も正常でない細胞になります。
多くの非正常細胞は生み出されるとすぐに死が待ち受けており、そのまま代謝されてしまいます。
身体の一部とならないのです。
ところがその細胞死のプログラムをかいくぐった異常細胞も数多く生成されるのです。
免疫系が排除すれば、問題は沈静化します。
まれに、生き残った異常細胞ががん化すると、「不死化」によって異常増殖するがん細胞となるのです。

化学発がん研究の困難さ

ところが、化学物質によるがんの発生という研究テーマは、いつの間にか忘れられてしまいます。
ウイルス性発がんや放射線による発がんなどが確認され、多くの研究者の目が、ウイルスや放射線に向けられるようになり、化学発がんというテーマはがん研究の中心的なテーマではなくなってしまうのです。

化学発がん研究の困難さ

あまりにも複雑なテーマ

今日も「化学発がん」こそが問題を解くカギと考える人たちが多くいます。
研究者にとってこのテーマは手をつけることが不可能なほどの複雑さを持っています。
単独の有機化学物質に発がん物質は数多く発見されましたが、複数の化学物質に汚染されることによってより危険度が増すと考えられています。
個別の物質の発がん性は多くの研究があります。
しかし、複数の化学物質がどのように影響するか十分に研究した学者はいません。
問題は化学物質に汚染されていない生物は地球上に存在しないのです。
しかも、体内に存在する化学物質の濃度・種類は100や200ではありません。
また、汚染の内容は人によってまちまちです。
これは動物でも同じことです。
毎日何百種類の化学物質が合成され、何万トンも製造され、土壌に、川に、大気に放出されています。
もはや汚染されていない空気を吸うことは不可能です。富士山の頂上どころか、エベレストの頂上に登ろうがそこで吸う空気は汚染されているのです。
山奥の上流、あるいは地下水、南極や北極の海水、深海の水なら汚染を逃れているでしょうか。
北極圏のイヌイットの人たちがもっとも深刻な汚染を受けているとさえいわれています。空気の対流、海流は汚染物質を北へ北へ運んでいるのです。
2011年3月の北関東大震災と津波で、福島原発のトラブルが発生し、汚染物質が世界中に拡散したことは周知の事実です。
アメリカ西海岸はあっという間に、間もなくアイスランドでも汚染物質が発見されました。
大気の流れと拡散の作用からまぬかれることはできないことなのです。
人類は運命共同体であることを、まざまざと見せつけられた感があります。
地球上に汚染をまぬかれている地域や生物はもはや存在しないのです。
さまざまな化学物質による複合的な汚染を定性的に、定量的に測定することは、もはや不可能な状況なのです。
このようなケースの科学的な研究には、汚染されていない群と汚染されている群を分けることが比較上重要です。
しかも汚染の内容を把握しなければなりません。
確認のためには追認試験が必要です。
確認のために同じ汚染を作り出すことなど不可能といわなければなりません。
化学汚染・化学発がんは研究テーマとして取り上げることができないほど深刻で複雑な汚染に支配された状況なのです。

化学物質を敵に回すことは困難

レイチェル・カーソンが農薬散布の危険性をセンセーショナルに発表したときも、大きく、激しい反対に直面しました。
化学物質は社会を牛耳っているのです。
毎日、何トンもの化学物質が作り出され、出荷されています。
大きな問題を引き起こす代表的な薬品は、製造中止、使用中止に追い込むことができましたが、そのときは、すでに取り返しがつかないほど大量に使われてしまったのです。
除草剤がどれほど大きな健康被害を出しても、農協はいまだに大量使用の宣伝をしています。
農協によれば、5L、10Lの購入より、200Lの購入がお得なのだそうです。
製造メーカー、販売企業が一体となって推進しているのが化学薬品なのです。
研究者は企業と敵対するjことは困難な時代です。
研究費の多くは企業からの支援なのです。
特定の問題企業と敵対しても、他からの支援を受ければよいと考えるかもしれませんが、
多くの企業は、相互に影響し合って存在しています。
一社の業績不振は、他の企業にも思わぬ負の影響を与えるのが現代社会の構造なのです。

化学物質の氾濫に自然は追いつかない

は自然界に存在しない化学物質を大量に生みだしました。
自然界に存在する物質は普通自然のサイクルの中で比較的短時間で微生物によって代謝され、分解され、炭酸ガスや水などに分解されます。
自然のサイクルが機能しています。
しかし、自然界に存在しない物質は代謝し、分解する微生物や酵素が存在しないか、その代謝量をはるかに超えて製造されているのです。
かつては川に流せば、川や海はすべての汚染を飲み込んで、代謝し、浄化してくれました。
土に戻せば地球の力によって自然に回復すると考えていました。
大空に放出すればいつの間にか空気はきれいになるものと思っていたのです。
地球は無限の回復力を持っているはずでした。
PCBは発がん性が指摘され、先進国では、製造も使用も禁止されています。
しかし、今なお母乳から高濃度で検出されています。
大量に使用されたフロンはオゾン層を破壊して、回復する見込みがありません。
炭酸ガスによる温暖化も指摘されています。
人間のつくり出したものは、もはや地球の回復力を超えてしまったのです。
日本人の化学者が2010年のノーベル化学賞を受賞しました。
たいへんおめでたい話です。
クロスカップリングという手法の開発で受賞したのですが、クロスカップリングは、常識では合成できない化合物を作り出す技術なのです。
人間は作り出す技術・能力は並外れていますが、作ったものを正しく処分する能力は残念ながら磨くことができませんでした。
母乳が危険だといわれているのです。
しかし、牛乳も安全ではありません。牛の食べる草も、飼料も汚染されているのです。
粉ミルクも同じことです。
飼料の中にわずかに含まれるPCBなどの化学物質は、確かに微量なのですが、代謝されずに脂肪の中に蓄積されます。
微量であっても毎日食べる飼料に含まれていれば、乳を出すころまでにどの程度蓄積されるでしょうか。
水が汚染されると、水中の微生物や藻が汚染されます。
プランクトンはそれらを餌にしますから、徐々に蓄積されます。
プランクトンを大量に食べるイワシはより高濃度で汚染物質を貯めこみます。
イワシを食べたハマチやマグロはさらに高濃度に汚染されます。
マグロのすしやハマチの刺身、牛乳やアイスクリーム、その他の乳製品、肉を何十年も食べ続ける人間の汚染はどれほどになるでしょうか。
がんだけでなく、その他の多くの問題が顕在化してきています。
人間は自ら滅びる道を歩み始めたのかもしれません。

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